【1回目です】 (2008年10月6日)
家族の病気 互いに話し合う場を
日差しが照りつけ、砂ぼこりの舞う砂利道を一台の自転車が急いで走ってい
た。運転する女性は荷台に幼い息子を座らせ、背には娘をおぶっていた。30
分ほど走り、完成間近の小さな建物の前に着いたときは汗びっしょり。
しかし、その顔は喜びにあふれていた。夫とともに夢にまで見た新居の完成は間近だった。
新居で暮らし始めてからも夫婦は家族のため、子供たちのために一生懸命に
働いた。息子は大学を卒業して遠く離れた東京で働き、娘は嫁いで隣県に移り
住んだ。夫婦二人となったが楽しい日々を送っていた。だが、そのころから妻
の行動に変化が表れた。物忘れが目立ち、冷蔵庫は常にいっぱいで奥の方は腐
った食料品で占拠された。認知症の始まりだった。
夫は、そのことを息子や娘に話さず、自分だけで介護し処理しようとした。
症状は進行した。しばらくして、息子は自宅近くに両親を呼び寄せた。直後に
親せきからの電話で母の認知症を知った。時々実家と行き来のある娘も認知症
については知らなかった。症状は坂道を転げるように進み、徘徊(はいかい
)も増えた。しかし、息子は自分の家庭のことで精いっぱい。協力を得られな
い夫は苦悩し飲酒量が増え、アルコール性肝硬変の状態となり死亡。妻は施設
に入所し間もなく亡くなった。
これは私が過去に経験したいくつかの実例を基にしたフィクションだが、夫
が妻の病気を自分たちだけの問題として子供に相談しなかったこと、一方の子
供たちも自らの生活に追われ、両親への配慮が行き届かなかったことが不幸な
結末を招いた要因といえる。皆さんは治療中の病気について子供に伝え、どう
いう状況にあるか知ってもらっているだろうか。あるいは両親の病気について、どの程度把握しているだろうか。
当クリニックの患者さんは糖尿病や肝疾患など慢性疾患を抱えるお年寄りが
多い。しかし、比較的元気で、病状が変化してから初めて家族にお会いし、後
悔することがある。家族の病気に関する情報は家族みんなで共有できたらと思
う。患者さんと家族、さらに主治医が日ごろから話し合う機会を持ち、互いを
知り合うことが重要だ。それがかかりつけ医との信頼関係を築き、病名告知や
インフォームドコンセント(十分な説明と同意)をスムーズに行うことにつな
がるのではないだろうか。
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【2回目です】(2008年11月17日) 糖尿病(上) 放置せず精密検査を 糖尿病の患者さんが増えている。全国の「予備軍」を含む患者の推計値は2002(平成14)年に1620万人だったが、06年には1870万人 と4年間で250万人も増加。本県でも増加の一途をたどっていて、昨年の 時点で14万人に上る。 患者の増加は、しばしば自動車保有台数の増加や食生活の欧米化との関連が 指摘される。それは運動不足、脂肪の多い食事への変化が発症を招いているこ とを示している。 テレビなどで、米国のハンバーガーを見ると日本と比べてかなり大きいのに 驚くとともに、多くの脂肪分を摂取しているのだなあと思う。しかし、最近は、 日本人のコレステロール摂取量が男女ともに米国を上回っており、特に若年層 の摂取量の増加が顕著であることを示すデータもある。 糖尿病は、膵臓(すいぞう)で作られるインスリンの分泌量の低下や働きの 悪化によって、本来細胞のエネルギーになるはずの糖分がうまく利用されず、 血液中にたまってしまう状態が続き発病。細小血管症(網膜症、腎症、神経障 害)、大血管症(動脈硬化症)といったいろいろな合併症も引き起こす。▽の どの渇き(口渇)▽やたらと水分が欲しくなる(多飲)▽おしっこが多くな る(多尿)―などが、よく知られる症状だ。しかし、初期段階で、こうした症 状は自覚しない。そのため、健康診断などで発病の疑いがあると分かり精密検 査を勧められても、そのままにしている人が多い。何年も放置してから病院を 受診、血糖値がかなり高く、その場で糖尿病と診断されるような人でも症状を 自覚しないことが多い。 同病にはウイルス感染などでインスリンが分泌されなくなり発症する1型と、 生活習慣の乱れ(食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足)や肥満が引き金になる2型 がある。日本人に多いのは2型で患者全体の約9割を占める。このほか、膵炎 など膵臓の病気によって起こることもある。 合併症の中でも大血管症は予備軍の段階から始まる。また、速やかに診断、 治療を行う必要がある膵臓がんが原因である可能性もある。症状がないからと いって侮るのは禁物だ。もし、疑いがあれば精密検査の早期受診をお勧めした い。 次回(12月29日)は診断、合併症についてお話ししたい。 |
【3回目です】(2008年12月29日)
糖尿病(中) 怖い動脈硬化の進行
糖尿病の診断は自覚症状と血糖値(血液中のブドウ糖値)が基本になる。自
覚症状はのどの渇き、やたらと水分を欲する、尿が多くなる、体重減少などが
典型だが初期段階では自覚しない。血液一デシリットル当たりの空腹時血糖
値(朝食前の血糖値)が百二十六ミリグラム以上、あるいは随時血糖値(食事
の有無に関係ない血糖値)が二百ミリグラム以上となっているかが診断基準と
なる。さらに、必要に応じて血糖値の時間経過を見るブドウ糖負荷試験を実施。
一―二カ月前の平均血糖値を反映するヘモグロビンA1cの値を調べて判断す
ることもある。
合併症には急性と慢性がある。血糖のかなり高い状態が続き意識がなくなっ
てしまう昏睡(こんすい)は急性合併症。慢性合併症には細い血管が障害され
る合併症(網膜症、腎臓病、神経障害)と、太い血管が障害される動脈硬化
症(狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、足などの動脈が詰まる閉塞(へ
いそく)性動脈硬化症)がある。
網膜症、腎臓病、神経障害は三大合併症といわれる。網膜症は失明原因の上
位、腎臓病は進行すると腎不全になり、透析治療の原因の第一位となっている。
神経障害は足の感覚が低下したり、しびれ、痛みが出る。自律神経が傷つけら
れると、めまい、便通異常(便秘、下痢)などが起こる。
進行すると失明や透析などに至る三大合併症は昔から恐れられてきた。しか
し、進行を抑えられるようになった現在、それ以上に怖いのが動脈硬化症だ。
知らぬ間に進行して心筋梗塞や脳梗塞で突然死する不幸な結果を招くこともあ
る。進行程度を診断するのが難しく、症状もない。また、同症は悪玉コレステ
ロール(LDLコレステロール)が高いと進行するのだが、糖尿病や高血圧が
加わると進行速度が早まる。同症は「糖尿病予備軍」の時から始まっていると
いわれる。
糖尿病患者さんの死因を見ると血管障害(心筋梗塞、狭心症などの虚血性心
疾患、脳梗塞などの脳血管障害、腎障害)が27%を占め、がんの34%に次
いで多い。糖尿病に伴う心筋梗塞や狭心症は神経障害を合併しているケースが
多く、胸痛を自覚しにくいことを知っておいてほしい。
次回(2月2日)は糖尿病の治療についてお話ししたい。
【4回目です】(2009年2月2日)
糖尿病(下) 治療の継続が大切に
先月発表された「2007年国民健康・栄養調査」で、糖尿病が疑われる成
人は「予備軍」も含めると推計2210万人に上ることが明らかになった。
06年に比べ340万人増えており、本県でも増加していると思われる。
日本人に多い2型糖尿病は、肥満の影響などにより膵臓(すいぞう)で作ら
れるインスリンの働きが低下したり(インスリン抵抗性)、インスリンの分泌
が減少して発病する。初めは食後の血糖値、進行すると食前の血糖値も高くな
る。
治療法を決める上で最も重視するのは血糖値だが、肥満かどうか、親や兄弟
に患者がいるか、発病してからの期間、症状などもポイントになる。治療の基
本は食事療法と運動療法。それで不十分なときには薬が必要になる。
薬を使う場合、罹患(りかん)期間が短いのに加え、肥満の人にはインスリ
ンの働きを活発にするものや糖がゆっくり吸収されるように作用するものを投
与する。罹患期間がある程度続いているときはインスリンの分泌を刺激するタ
イプなどを処方。長期間にわたって罹患し合併症も進行していればインスリン
を注射する。罹患期間が短くても、血糖値が非常に高ければ一時的にインスリ
ン注射を使う。
治療の進め方は各医師の経験によるところが大きかったが、最近はガイドラ
インが示されて基本になっている。開業医と専門医との連携も進み、医師の間
で治療法の違いは少ないと考えられる。
県糖尿病対策推進会議は本県の現状として、適切な治療を受けていない患者
が少なくない可能性などを示し▽糖尿病専門医と地域のかかりつけ医の連携を
深め、地域の診療力を高める活動▽講演会などを通じた地域住民、潜在患者へ
の啓発活動▽県内の糖尿病とその合併症の実態を調べる調査活動―を進めてい
る。
糖尿病は適切な治療を継続して受けることが何より大切だ。働き盛りの年代
では朝食を抜き、午前中から行う検査は受けにくいだろうが、検査法はいくつ
かあるので医師に相談してほしい。また、雇用情勢の悪化により経済的に通院
が厳しい人もいるかもしれないが治療を中断しないように努めてほしい。前述
したように医師の間で治療法の違いは少ないと思われ、必ずしも遠方の専門施
設まで足を運ぶ必要はなくなってきた。それぞれが定期的に受診しやすい施設
を見つけ、納得できる治療を受けてもらいたい。今回は、これまでの四回の内容を振り返りながら、伝え切れなかったことを述べたいと思う。一回目は、病気は家族みんなで共有できるもので、患者さん、ご家族、医師が日ごろから話し合う機会を持ち、互いを知り合うことが信頼関係を築き、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)や病名告知をスムーズに行うことにつながるのではないかと書いた。
その支障になると考えられるのが医療の専門用語や、病気を理解するための知識だ。病気について説明する際、医師は「寛解」「予後」などの専門用語を使いがちで、患者側からすると分かりづらい。なるべくそうした言葉を使わない、分かりやすい説明が求められる。最近、国立国語研究所が「病院の言葉」を分かりやすく伝えるように提案、具体例を示した本が出版され、医療者だけでなく、患者側にも役立ちそうだ。
病気を理解する知識に関していえば、一般向けに多くの書籍が出ているほか、インターネット上でも豊富に情報を得られるようになった。さらに、市民公開講座などが各地で開かれるようになっており、気軽に医療者の講演を聞くこともできる。医療の知識を蓄える環境整備が進んできたのはありがたい。
二回目以降は糖尿病がテーマだった。糖尿病患者の死因の27%が血管障害(心筋梗塞(こうそく)や狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞などの脳血管障害、腎障害)であり、動脈硬化への注意を促した。ただ、そうはいっても死因で最も多い34%を占めるがんへの注意も怠れない。糖尿病に限らず、別の病気の治療中にも、がんにかかる可能性は十分にある。年一回は胃の検診などを受け、中年以降の男性であれば前立腺がん、女性ならば乳がんや婦人科がんにも気を配ってほしい。がん検診について疑問があれば医師に相談し、積極的に受けるようにお勧めしたい。
糖尿病では治療にも触れた。今年は新薬が発売予定で、治療の選択肢が増えるのは朗報だ。しかし、経済情勢の厳しい現在、治療の継続が困難な人も少なくない。高血圧や高脂血症などを合併している場合は薬が増え、高額な治療費が必要になることもしばしばある。薬代を抑えるには後発医薬品(ジェネリック医薬品)を活用するのも一つの方法だろう。
治療期間が長引いて飲み薬の効きが悪くなると、インスリン注射への切り替えを勧められる場合がある。入院が必要になると考え、ちゅうちょする患者さんもいるようだが、現在は一部のケースを除いて通院でもインスリン注射を行えるので医師に聞いてほしい。
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